美女の危険な香り
 そして俺と優紀子の間に吹く隙間風(すきまかぜ)がどんどんひどさを増していったのは言うまでもない。
 

 俺たちは一見して、六本木の会社の社長さんとその奥様という形で仲睦(なかむつ)まじそうに見えたのだが、関係はどんどん拗(こじ)れていく。


 俺が千奈美と会って、抱く手を強めるのに対し、優紀子は誠からきつく抱かれているようだった。


 夫婦でお互い不倫――、これが仮面夫婦というやつなんだなと俺は思っていたし、実のところそうなのだ。


 俺たちは顔を合わせるたびに、互いに嫌気が差し、表情が硬くなりつつあった。


 そう、お互いが巧妙に不倫し合っているのだから……。
 

 そして出し抜いているのだから……。


 この関係に修復の余地はないだろうと思われた。


 どちらかがよほど強い口調で話を切り出さない限り……。
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