美女の危険な香り
 コーヒー一杯で十分満足しているようだった。
 

 俺は冷たいカフェオレを飲みながら、まずはトーストを齧り、スクランブルエッグを食べる。


 そして野菜サラダに箸を付け、食事を取り続けた。


 千奈美はカウンターに置いてあった新聞を手に取り、気になる記事だけをピックアップして読んでいるようだ。


 彼女の目が上下に繰り返し動くのが脇からも見て取れる。


“やっぱ普通の会社員でも新聞ぐらいは読むんだ”


 俺は頻繁に思い起こす。


 用事があって電車で移動するとき、駅の構内で皆がケータイを使っていることを。


 おそらく俺の働き盛りの時代と違って、今の若い世代はほとんどがケータイなのだろう。


 俺はその光景を見つめながら、不気味にすら思っているのだった。


「こんな状態でよく仕事できるな」と。


 日本人のケータイ依存症がかなりひどいと、俺が読む経済紙には書いてあった。
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