美女の危険な香り
「旦那が相手しない」とか何とか言ってるようで、彼女の父親の洋平が俺のケータイに連絡してくることがある。


「ちゃんと娘の相手をしてやってくれよ」と。


 俺は電話では「はいはい」と言っているものの、実際問題、優紀子が誠と付き合っていることを知らせれば、洋平が激怒するものと思われた。


 箱入りで嫁に来た娘が、洋平の時代の言葉で言う不貞(ふてい)や不倫といったものに手を染めていることを知れば嘆くだろう。


 だから俺は腫(は)れ物に触るように義父である洋平には絶対知らせないつもりでいた。


 香原財閥は一人っ子の優紀子が嫁(とつ)いだことで、事実上後継者がいなくなっている状態だ。


 洋平は自分の跡継ぎに、日本でも最大手である大磯グループから、養子を迎えるつもりでいた。


 対象となるのは大磯家の三男で、今、大磯AG銀行の新宿支店長をやっている健介だ。


 健介は親に似たのか、それとも大財閥の末っ子で、兄たちとは一味も二味も違うからだろうか、しっかり者だった。
 

 健介の父親で大磯グループ会長の龍造(りゅうぞう)はどうやらそれを了承したらしい。

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