美女の危険な香り
 俺自体が、普段からイノベーション――いわゆる技術革新というものを考え続けている。


 頭が新鮮な若い人間たちに任せないと、これから先、今井商事は回っていかない。


 会社が組織である以上、部署ごとを回すのに適材適所(てきざいてきしょ)がある。


 何も経営学などを知らなくとも、俺が信太郎から体と勘で教え込まれてきたからだ。


 俺の実の父親であり、同時に人生の師匠でもあった信太郎は今頃空の彼方でどんなことを思っているのだろう……?


 古雅や高橋など、自分の子飼いの人間たちがいい加減なことをしているのに激怒しているではないかと思われる。


 そして俺は社を改革するつもりでいた。


 社長室に入っていくと、女性用の香水の香りが辺りに漂っている。


 多分秘書課の誰かが淹れてくれたのだろう、テーブルの上にはホットのコーヒーが一杯あり、白い湯気が出ていた。


 俺はそれを見て、ふっと思う。


「また新しい一日が始まるな」と。

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