美女の危険な香り
「俺?俺はウエルダンだよ」


「了解」


 店を切り盛りするマスターはシェフで、確か料理修行のために渡米したことがあるらしい。


 脱サラして、溜めていた貯金を叩(はた)き、アメリカにある洋食店で三年以上、修行したと聞いている。


 もちろん最初は皿洗いで、徐々に自分よりも立場が上の人間たちの料理を作る様子を見ながら、修養をしたと言っていた。


 洋食屋で下積みした経験が生きているのだろう、マスターは肉を焼くときになると、慣れているとはいえ、目付きが真剣になる。


 そしてウエルダンで焼き上げた後、目の前にいる俺の皿にその肉を載せ、


「どうぞ」


 と言って、付け合せのライスを盛り、トントンと包丁を叩いて、サラダを作り始める。


 俺が肉をナイフで切ってフォークで差し、口へと運ぶ。


 俺自身、昼に食べるステーキが何よりもいいのだった。
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