美女の危険な香り
 酒の飲みすぎで、去年肝臓に腫瘍が見つかり、切除はしたものの、抗がん剤による治療を受けているようだ。


 俺は義父が苦しい立場にあるにも拘(かかわ)らず、若い女と遊ぶ時間を楽しみにしていたし、第一娘の優紀子が実の父親の病気治療に向き合うことなく、堂々と訳の分からないデリヘルボーイと付き合っていることにはかなりの抵抗を覚えていた。


 どうかしてるんじゃないか?――、そう思わざるを得ない。


 俺は一応仕事の合間に新宿区にある病院を慰問していた。


 洋平は抗がん剤の副作用で、すっかり毛が抜け落ちてしまって、見る影もない。


 一時期は香原財閥を日本最大手の流通会社にしたドンが、今は病院のベッドに横になっている。


 余命いくばくもない洋平に俺は優紀子のことは一切話さなかった。


 仮に話したとすれば、多分100%仰天するだろうと思うから……。


 まさかたった一人の愛娘が、出会い系サイトを通じて知り合った男と不倫しているなどと聞かされれば……。


 そして健介の父、大礒龍造の悪だくみは始まったばかりだ。

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