恋人[短編]
「ねえ~、宮嶋君っ♪ なんでここの答え~、X=26なのぉ~?」
「あ? ああ、ごめん。それ俺もよくわかんねえ」
「そうなのぉ? 大丈夫よぉ! 謝らなくてぇっ」
席3個分離れた所から、むかつく会話が聞こえてくる。
だいたい、絵美の話し方!
語尾に母音をつけるんじゃない、っつーの。
そういう話し方がかわいいとでも思ってるんだろうか。世間で言う、「ぶりっ子」そのものじゃんか。
男子に嫌われる話し方、№1だと思うんだけど。
「早川、ここわかる?」
「えーぇ、どこぉ? ああ、そこはねえ、」
…………イライラして、勉強が手に付かない。
苦手な数学なのに、全く頭に入ってこないのは困る。
シャープペンを握る手に力が入る。
ミキっという音がして我に返り黒板を見つめる。
シャープペンにひびが入っているのは、見て見ぬふり。
まあ、ひびが入っちゃったんだから、どうせ買いかえるんだろうけど。
───キーンコーン…
チャイムが鳴る。
「はい、明日までに宿題やってくること」
先生が言い、委員長の私が号令。
「起立、礼」
「「ありがとうございましたあー」」
この声も、絵美のぶりっ子声が目立つ。