恋人[短編]
「とーわぁ!!」
宮嶋が、私の席にやってくる。
あ、永遠、と書いてとわと読む。
間違っても「エイエンちゃん」とか、言わないでほしいので要注意。
「みや、嶋!」
顔がほてり、声が裏返る。
こんなに分かりやすい反応なのに(自分でもわかる)私の気持ちに気付かない宮嶋は、相当な鈍い男だ。
「永遠ー、ノート、ノートかして! やばい、全然分かんなかった!」
こうして、宮嶋が毎回と言っていいほどノートを借りに来るのが、授業後の私の楽しみである。
自分で言うけど、私の作るノートはきれいだから。
先生の雑談も、必要ならメモするし、色も使って見やすくする。字は、もちろんきれいに書いて、あとは……まあ、その他いろいろな工夫を施しているわけだ。
それもこれも、全部宮嶋のため。
高校二年生の私たちは、受験を、もう考えなければいけない。
宮嶋と一緒の大学行きたいけど、レベルの低いところだったら行く意味がない。
だから、このノートは「せめて少しでも頭が良くなってほしい」という私の願いが込められているノートなのだ。
宮嶋のため。
三分の二くらい、自分のため。
「また? ったくー。いい加減にしよーよ」
……なんて。
こんな願望がありながらも、つい。
つい、優しくできない。
「はい、いいよ♪」
って、にっこり笑う。なんてできない。