月と薬指

ただ、

必要最低限の身の回りの物は、

無くなっていたみたいだった。


ただ、

ただ、

呆然とするしかなかった。


会社へ帰ったって、

仕事など手につかなかった。


机に向かって座ったところで、

何をすればいいのか分からなかった。


書類の散乱した机の上。



『秋山ぁぁぁー!!
 机は整理しろぉぉぉー!!
 放置物をつくるなぁぁぁー!!
 仕事の効率が下がるだろうがぁぁー!!』



冬月さんに、よく注意されて、

整理整頓が習慣化したんだったな。


その染み付いた行動すら、

この数日間は出来ていなかった。


緩慢な動作で書類の入った封筒を鞄から出す。



その中に、



見慣れない古いノートが、

手紙と共に在った。




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