月と薬指
7
誰にも、
何も言わずに居なくなった冬月さん。
オレにだけ、
最後の『言葉』をくれた冬月さん。
「兄貴は、ズルイよ。」
墓に手向けた線香の煙が、
日曜の昼下がりの午後の光に揺らめいていた。
昔から、そうだった。
兄貴は、
オレが欲しいものを、全部持っていた。
だから、
若くして逝った時、
少しだけ、
ほんの少しだけ、
心の中で呟いた。
『ざまぁみろ』
それなのに、
結局、
兄貴には最後まで勝てなかった。
いや、
勝つとか負けるとかじゃないな。
これじゃぁ、
いつまでたっても子供のままだな。
自嘲的な笑いがこみ上げてくる。
それでも、
オレは、
もう変化を恐れたりはしない。
変わらない日常なんて無いって判ったから。
彼女が教えてくれたから。