月と薬指

*月*日


仕事の帰りにタクシーの窓から見た朝焼けが綺麗で、

いつだったか

貴方が言ってた事を思い出した。



「僕の生まれた町は、

 ここなんかからは想像もできないくらい田舎なんだ。

 眠れない夜は、

 部屋の窓から、

 明けていく東の空をよく見ていたよ。


 大きな空が田んぼと畑の夜露を吸い込んで、

 遠くに見える山の方からは鳥の群れが来るんだ。


 曙色の綺麗な空を見てると、

 心がスーッと落ち着いて、

 体温が冷めていくんだ。


 何だか分からないけど、

 生きてるって実感できたよ。」



お酒を飲んで、

客の相手をして、

薄暗い世界で生きて、

この体に何が残るっていうんだろう。


貴方がいた時は、

それでも光が射していた。


でも、

今は、

そんな光すらない。


貴方が見た朝焼けは、

私の闇も照らしてくれるんだろうか。


貴方が生きた町は、

私の世界を変えてくれるんだろうか。


化粧の崩れた汚い顔が、

タクシーの窓ガラスに映った。


爽やかな朝の空気は、

こんな私など受け入れてはくれない。


貴方の居ない部屋は、

私を酷く傷つけるばかりだから。


貴方の居ない街よりも、

貴方が生きた町のほうが、

今の私には似合ってるきがする。


私の知らない貴方に、

逢いにいこう。





待っててね。




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