彼氏キケン地帯


目を小さく見開いている尚。


困惑の色が瞳に映し出される。


そんな尚の姿が目に入り、熱くなっていた気持ちが一気に熱がなくなる。


「痛いよー!」


泣きながら美沙さんは、尚に抱きつく。


(あの女ー!!)


再び熱を発するとともに、尚がいるという状況に焦りが生まれる。


はじめてのこの状況に、お互い違う意味であたしも尚も困惑する。



以前は、ほとんどあたしが一方的に攻められ、その後尚が助けてくれたという素敵な構図。


でも、今回はどう見てもあたしが悪役(ヒール)じゃないか。



「どうなってんだよ。」


困惑したように、尚はあたしと美沙さんを交互に見つめる。


なんとしても尚にわかってもらいたくて説明しようとしたのに、あたしより先に美沙さんの方が口を開いた。



「あ、あの子が…ッあたしのほっぺた殴って…っ」



片方の頬を両手で押さえて泣きじゃくる彼女。



「は?!意味わかんねーけど。とりあえず大丈夫か?」


彼女を心配する尚に比べて、それを冷ややかな目で見てしまうあたし。


なんだ、この温度差。


日本とエクアドルの気温の差より大きいんじゃないか?


なんて冷静な自分もいたりして、この場にいるのが怠くなってきた。



「暴力女!最悪!もぉ、痛いよー!口の中、切れてる…っ」



さっきから、似たようなことしか口にしていないこの女。


怒りは、尚の前だというの上昇中。



絡ませている尚の腕も。
映っている黒目がちな瞳も。

優しくたずねるその声も。


ぜんぶ、ぜんぶ

あたしのだもん。



「…殴ったの?」


優しくあたしに問いかけるその唇。


自分でも知らないうちに芽生えた独占欲に、嫌気がさす。


「うん。」


「なんで?」



悲しそうに瞳を揺らす。

やだ…。

あたしは、こんな顔をさせたかったわけじゃないのに。



「やられたから、やり返しただけ。」



でも、あたしの口からでた声は、自分でもびっくりするほど冷たかった。

_
< 109 / 191 >

この作品をシェア

pagetop