彼氏キケン地帯
目を小さく見開いている尚。
困惑の色が瞳に映し出される。
そんな尚の姿が目に入り、熱くなっていた気持ちが一気に熱がなくなる。
「痛いよー!」
泣きながら美沙さんは、尚に抱きつく。
(あの女ー!!)
再び熱を発するとともに、尚がいるという状況に焦りが生まれる。
はじめてのこの状況に、お互い違う意味であたしも尚も困惑する。
以前は、ほとんどあたしが一方的に攻められ、その後尚が助けてくれたという素敵な構図。
でも、今回はどう見てもあたしが悪役(ヒール)じゃないか。
「どうなってんだよ。」
困惑したように、尚はあたしと美沙さんを交互に見つめる。
なんとしても尚にわかってもらいたくて説明しようとしたのに、あたしより先に美沙さんの方が口を開いた。
「あ、あの子が…ッあたしのほっぺた殴って…っ」
片方の頬を両手で押さえて泣きじゃくる彼女。
「は?!意味わかんねーけど。とりあえず大丈夫か?」
彼女を心配する尚に比べて、それを冷ややかな目で見てしまうあたし。
なんだ、この温度差。
日本とエクアドルの気温の差より大きいんじゃないか?
なんて冷静な自分もいたりして、この場にいるのが怠くなってきた。
「暴力女!最悪!もぉ、痛いよー!口の中、切れてる…っ」
さっきから、似たようなことしか口にしていないこの女。
怒りは、尚の前だというの上昇中。
絡ませている尚の腕も。
映っている黒目がちな瞳も。
優しくたずねるその声も。
ぜんぶ、ぜんぶ
あたしのだもん。
「…殴ったの?」
優しくあたしに問いかけるその唇。
自分でも知らないうちに芽生えた独占欲に、嫌気がさす。
「うん。」
「なんで?」
悲しそうに瞳を揺らす。
やだ…。
あたしは、こんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
「やられたから、やり返しただけ。」
でも、あたしの口からでた声は、自分でもびっくりするほど冷たかった。
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