彼氏キケン地帯
もちろん馬鹿にして言ったわけじゃない。
心配してかけた言葉がこれだ。
もしかしたら寝ぼけているのかもしれない。
だって尚だもん。
硬派で、極度の恥ずかしがり屋の尚が、さらっとあたしを「可愛い」なんて言えるはずかない。
「尚、寝ぼけてんの?」
「んーん。まさか。ほら、ぱっちり!」
ニコッと笑う尚は、やっぱりいつもとどこか違くて、あたしは戸惑いを隠せない。
「蜜希、サボっちゃお?」
二つに分けて縛っていた猫っ毛の髪をスルリと解かれる。
パサッと癖のあるセミロングが、肩ほど隠す。
びっくりして尚を見ると、彼は目を細めて優しく微笑む。
そして、優しく頬を撫でられキスをされる。
こんな尚、知らない。
何度願ってもしてもらえなかった、ほっぺチュウ。
「尚…―?」
そして、ゆっくりと唇が触れた。
今度は頬ではなく、唇に。
初めてのキス。
嬉しいはずなのに、あたしはなぜか涙が出てくる。
そっと優しく触れる唇を想像してた。
尚のキスは、奪うような強引なキス。
割って入るような唇は、確かに尚のもので、あたしの唇は抵抗できない。
まるで別人みたい。
あんなに優しかった尚が、あんなに鈍くて硬派で、手だってなかなか握ってくれないほど恥ずかしがり屋な尚が、今あたしにキスしてる。
.