彼氏キケン地帯
家に帰ると、「あ。おかえり」と妹が言ったけど、あたしの耳にはなにも入らなかった。
「ちょっと、なにその顔…」
珍しく心配してくる。
なんだ、こいつにも姉を気遣うということができたのか。
そう思うと、急に笑えてきたはずなのに、視界は歪んで汚く見えた。
「ハハ。さおり、顔ぐちゃぐちゃ…」
「ぐちゃぐちゃなのは、お姉ちゃんだよ…どうしたの?」
妹に背中をさすられながら、あたしは過呼吸になる。
「もしかして…尚さんと喧嘩した?」
尚の名前を聞いた瞬間、なにか糸が切れたかのように体の力が抜けたかと思うと、あたしは声を上げて泣いた。
尚と喧嘩したのは初めてだった。
口は汚いことを言っても、尚はいつも優しいから喧嘩という喧嘩になったことはない。
あんな冷たい尚は、初めて見た。
電話しようかしないか迷ったけれど、結局その日は眠れなかった。
_