彼氏キケン地帯
覚悟を決めたあたしは、斉藤が待つ準備室へと向かった。
尚と約束はできない。
あたしには先約があるんだと、香奈に伝えてもらうようお願いした。
手のひらに浮かぶ汗をぎゅっと拳の中にしまい込んで、ガラリと準備室の扉を開けた。
その瞬間、夕陽が目にあり混み、眩しさに怯んで目をつむった。
手でそれを遮ると、正面にある窓に寄りかかる斉藤が見えた。
「おっそいぞー。みーつチャン。」
ヘラッと、だらしない口調。
いつもと変わらない様子であたしに近づいてくる。
斉藤とは、たくさん話したりしたわけじゃないけど、事あるごとに「蜜チャーン!」と絡んでくるものだから、あたしにとって斉藤の存在は不思議なものじゃなかった。
初めて会ったとき、あたしはいい加減な態度の尚に怒って悲しんで、階段を降りてちょうど二階のフロアにさしかかったところ、ここから淫靡な声が聞こえて…
そこまで思い出すと、あることに気づきハッとした時には、斉藤は体と体がくっついてしまうほど近くにいた。
耳元でフーッと息を吹きかけられる。
一瞬にして、サーッと熱が引いたような感じがした。
「俺がここに呼んだ理由…わかったよね?」
わざと耳に唇をくっつけてそう言うと、あたしの腰の高さあたりにある鍵がガシャンと閉まった。
その瞬間、大きく口を塞がれた。
「ン?!」
_