彼氏キケン地帯


「っ…」



抵抗は無意味で、あたしはただ涙を流すしかできなかった。



尚、尚、尚!


大好きな尚に逢いたくて、今すぐ抱きしめてほしい。



斉藤が触れるたび、自分が汚れていくと思った。

涙を流すたび、自分の愚かさを恨んだ。




「……尚のもとに帰りたい?」



過呼吸になるあたしに、斉藤が何を思っているのかそう言った。


そのとき、あたしは涙で視界はぐちゃぐちゃ、息が上がっててとにかく頷いていた。



「…あんな奴のどこがいいわけ?」


「え?…はぁ…っ」



急に手首が自由になり、流れる涙を拭うと、もう一度斉藤を見た。



だけど、斉藤はあたしから視線を逸らし、カシャンと鍵を開けると何も言わず準備室から出て行った。



解放感を感じ、全身の力が抜けたのか、へたりこみ乱れた息をととのえた。


乱れた胸元を直すと、床に散らばったいくつかのボタンを拾って、準備室を出た。




「っ…尚。」



廊下を泣ながら歩いた。

涙を拭っては、尚の名前を呼びながら。



教室に戻ると誰もいなくて、窓の外はもう日が沈んで薄暗くなっていた。

急に孤独を感じ、世界でひとりぼっちなのかなとまで錯覚してくる。



なんで、こんなことになっちゃったんだろう…。


そう思ったとき、背中が急に温かなものに包まれた。



「…どこに行ってたんだよ、ばーか。」


「え?!」



コツンと頭の上に何かが乗っかる。


でも、そんなのすぐにわかって、あたしの胸はキュンと高鳴る。


あたしの頭に顎を乗せ、あたしを優しく抱きしめているのは尚。



なんでだろう。


今日はじめて会ったってだけなのに、すごく懐かしいと思える。



ぎゅっと、尚の腕に触れると、尚があたしの首筋に顔を埋めた。


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