彼氏キケン地帯
揺れている瞳を見て、あたしはそう言う。
後ろで尚が小さく「え…」と呟き顔をのぞく。
斎藤は、その瞬間少し驚いたような顔を見せると、顔を隠すように俯いた。
「あんたはさ、めっちゃ傷ついたかもしれないけど…こんなことしたって何にもなんないことくらいわかるでしょ?」
「…うっせんだよ。」
初めて聞いた斎藤の余裕のない声。
きっと、これが本当の彼なんだと思う。
彼の仮面がゆっくりと崩れ落ちていくのがわかる。
「尚の理由だって聞いてよ。尚だけが…加害者じゃないし。斎藤だけが、被害者っていうわけじゃない。誤解してるよ。」
「誤解?!こいつは雪奈を奪ったんだぞ?!…雪奈を…」
今にも殴りかかりそうな斎藤。
そのとき、ガヤガヤとうるさかった野次馬の中から一人女の子がこちらに来た。
小さくて、少しつり目の女の子。
その子は、ちらりと尚を見た後斎藤のもとにやって来た。
「裕史…ごめん。」
「は…」
彼女の声に、斎藤が顔を上げる。
その瞳からは悲しみの雫が、今にもこぼれ落ちそうだった。
それを見て、この子が斎藤の言うユキナという元カノだとすぐにわかった。
「その子が言ってること、間違ってない。あたしは、裕史を裏切ったんだよ…」
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