彼氏キケン地帯
「ね、尚…」
明かりのついていない家を見て、きゅうっと胸が切なくなった。
いまは、もう夕飯の時間だ。
周りの家は明るく、ときどき笑い声が聞こえてくる。
なのに、尚の家には人の気配はなく真っ暗だった。
いまさら思った。
お母さんに捨てられ、お父さんには憎まれ、尚の居場所はどこにもなかったのかなって。
ふと、そう考えると急に下を向いてしまったあたしに尚は、不思議そうに声をかけた。
キョトンとした顔。
「な、尚が…」
「ん?」
「…っ」
チラリと視線を上げると、尚はあたしの顔を優しく覗き込んでいた。
そんな顔を見たら言えない。聞けない。
あたしはいつもタイミングの悪いことばかりを言ってしまっているのではないだろうか。
考えたこと、思いついたことをすぐに口にしてしまうから、もしかしたら尚はこの話をしたら顔を歪めてしまうんじゃないかと思ってしまう。
"人に聞いていいことと悪いことがある"
ってお母さんが言ってたなぁ、なんてふと思うといきなり唇に柔らかな感触。
「へ…」
間の抜けた声を出すと、尚はチュッと音を立てあたしにキスをした。
_