彼氏キケン地帯

「っ…」


ポロポロと涙が零れた。

真っ直ぐと尚を見ることができず、無機質なコンクリートを見たまま口を開いた。



「ななな尚は…っ!
なんっ…てたのか……っいよ」


「待て待て。何言ってっかわかんねえよ」


少し焦りの表情を浮かべる尚。


でも、視界は歪んだコンクリートで埋められたあたしは、尚の足元くらいしか見ていない。



「尚が尚じゃないって…っどういうことか…ヒック
意味わかんなーい!うわー!」


最後はわけがわかんなくなって逃げ出した。


肝心なことを聞きたくて尚を読んだのに、聞くのが怖くなって逃げ出してしまった。



あんな尚になっちゃったのは、やっぱりあの事故のせいだよね。


あたしのせい…なんだ。



もう一度、少し照れながら『蜜希』って呼ぶ尚に会いたい。



「はぁはぁ…ひっく…」


過呼吸になってきたあたしは、苦しくなって途中階段のところにうずくまった。



瞼は重く、そして熱い。
尚を思い出すたび、涙は溢れて頬を濡らす。



きつく瞼を閉じ、膝を抱えて顔を伏せた。




「もう…やだっ!「アンッ」






………。


「…は?」



伏せたばかりの顔をパッと上げ、涙はちょちょぎれて、急に止まった。


な、な、な

なに?

今の声…。



ガタンガタンっと音がするのは、目の前の資料室の中からだ。



「え?え?」


「アンッ」



えぇーッ?!!


初めて聞く卑猥な声に、顔が熱くなる。


な、なにしてんだよ、

んなとこで!!



あたしにだってわかる。
この嫌なくらいに響く声がなんなのかくらい。




「…へぇ。興味あるんだ?」

「ッや?!」


.
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