彼氏キケン地帯



前は、いつも穏やかでおっとりしていた尚にドキドキしてたのに、今じゃこんなにひねくれてる尚に夢中だなんて、ちょっと前のあたしには想像もつかなかっただろうな。


不真面目で全然硬派じゃない尚があんなに嫌だったのに、今じゃそんな彼を隠さないでほしいだなんて思ってるなんて。




『ちょっ誰だよ!こいつ泣かしたの!女だからって容赦しねえからな。』

『可愛いなお前。』


『俺…幸せ!』



ほんとは、子供っぽくて、不器用だけど優しい尚のことをこんなにも好きになってたなんて。



きゅうと胸が締め付けられるように痛くて、なんだか泣きたくなった。



視界が滲んで、雫がこぼれ落ちそうになったとか、ふわっと尚の香りがしたと思ったら、あたしは彼の腕の中にいた。



彼はあたしの頬に流れる涙に気づくと、それを拭ってくれた。



「何で泣いてんの?俺、なんかした?」



体が離れたら彼の顔が見えた。

泣きそうな顔していた。



「どっち?」


「え…」



気づいたらそう言ってた。



「尚?それとも"尚くん"?」



尚の目は、動揺してるのか揺れていて、そんなこと聞かなくてもわかってた。


「なんで猫なんか被ってんの?ほんとの尚は違うじゃん。教室にまで来て、なんのつもりなの?」

「それは…」


「ほかに好きな子でもできた?」

「なっ?!ちげぇよ馬鹿!なんでそうなるんだよ?!」


「だって!あたしの時はそういう理由で…っ!」


「だからなんでそれがお前じゃなくてほかの奴になんだよ!」


「あ…っ」


強く抱きしめられた。


痛いくらいに。



「お前が…お前が"神崎くん神崎くん"って言うから…お前のタイプだったから…」



_
< 183 / 191 >

この作品をシェア

pagetop