彼氏キケン地帯
「あたしが好きな尚は、もっと優しかった…っ」
尚の瞳が大きく揺れた。
言ってすぐ、泣きそうになった。
気づいたときには遅かった。
尚の顔が小さく歪んむ。
初めて見た尚の苦しそうな顔。
まるで“痛い”と言っているみたいに。
「尚ごめ…っ!」
「わかってんだよ…」
「え…っ」
「んなこと、わかってんだよ」
痛かった。
尚の顔を見るだけで、声を聞くだけで、胸の奥が痛かった。
さっき自分が言ってしまったことが夢みたいで、今尚がこんな顔をしているのは、紛れもなくあたしのせいなのに、何も言えなくて。
どこを見たらいいのかもわからない。
尚を見なきゃと思うほど、目が地べたばかりを見てしまう。
心が痛くて、悲しくて。
違うのに。
そんなこと言いたかったわけじゃないのに。
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
尚を独り占めしたかっただけなのに。
ただ、優しく笑ってほしかっただけなのに。
立っているのがやっとだった。
感覚がなくて、今自分がどこにいるかもわからなかった。
でも、尚だけはしっかりとわかっていて…ううん。尚だけ。尚だけしか見えてなかった。
そして、ただ目頭が熱かった。
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