彼氏キケン地帯


キリっとした眉に、凛とした横顔。


瞳は酷く怒りを表していた。



「次。」


「あ、え…」


「早く言えよ。何したんだよ。わかりやすく全部言え。うそつくのもダメ。」



尚のキツく荒々しい口調に、彼女たちの瞳に恐怖の色が見えた。


意地悪そうにつり上がっていた眉も、今は弱々しくハの字に垂れて、唇を震わせている。



平手打ちされたり、嫌がらせされたし、悪口いっぱい言われたけれど、なぜか見ていられなかった。




「早く。いえないの?帰れないよ?」


「あ…の…缶ペンに食い捨てのガム入れて…その…悪口言いながら平手打ちしました。」



四人の中で一番意地悪そうな話し方の子だった。

鼻にかかったような高い声で、人の顔を見るたびに嫌な笑い方をしてたなぁ。


なのに、今はこんなに瞳を泳がせている。


動揺と恐怖が入り混じったような表情。


こんな姿を見て可哀想だと思うあたしは偽善者なのだろうか。




ダン!


「ごっごめんなさいぃ!」


「てめーの缶ケースにガム入れてやっか?もうしねーなら、謝れよ」


「ごめんなさい…っ」



尚の尋問は徹底的だった。

だから、一人一人謝ってくれた。


謝られるたびに、あたしはどんな顔をしたらいいのかわからず、視線を逸らしてしまう。



「制服やジャージを隠しました。あと、悪口とビンタもしました…」


「で?」


「ごめんなさい!もうしません!」



深く頭を下げて謝る彼女に、なにを言ったらいいのかわからない。


許すとか許さないとか、今はそんなこと頭に全然なくって、ただ目の前のことに驚きを隠せずにいた。



尚が自分のために、ここまで彼女たちを追い詰めている。謝らせている。

わかってる。


尚があたしのために怒ってくれてるんだって。


すごく嬉しいけど…




「ひどいよ…尚。」


_
< 55 / 191 >

この作品をシェア

pagetop