彼氏キケン地帯
キリっとした眉に、凛とした横顔。
瞳は酷く怒りを表していた。
「次。」
「あ、え…」
「早く言えよ。何したんだよ。わかりやすく全部言え。うそつくのもダメ。」
尚のキツく荒々しい口調に、彼女たちの瞳に恐怖の色が見えた。
意地悪そうにつり上がっていた眉も、今は弱々しくハの字に垂れて、唇を震わせている。
平手打ちされたり、嫌がらせされたし、悪口いっぱい言われたけれど、なぜか見ていられなかった。
「早く。いえないの?帰れないよ?」
「あ…の…缶ペンに食い捨てのガム入れて…その…悪口言いながら平手打ちしました。」
四人の中で一番意地悪そうな話し方の子だった。
鼻にかかったような高い声で、人の顔を見るたびに嫌な笑い方をしてたなぁ。
なのに、今はこんなに瞳を泳がせている。
動揺と恐怖が入り混じったような表情。
こんな姿を見て可哀想だと思うあたしは偽善者なのだろうか。
ダン!
「ごっごめんなさいぃ!」
「てめーの缶ケースにガム入れてやっか?もうしねーなら、謝れよ」
「ごめんなさい…っ」
尚の尋問は徹底的だった。
だから、一人一人謝ってくれた。
謝られるたびに、あたしはどんな顔をしたらいいのかわからず、視線を逸らしてしまう。
「制服やジャージを隠しました。あと、悪口とビンタもしました…」
「で?」
「ごめんなさい!もうしません!」
深く頭を下げて謝る彼女に、なにを言ったらいいのかわからない。
許すとか許さないとか、今はそんなこと頭に全然なくって、ただ目の前のことに驚きを隠せずにいた。
尚が自分のために、ここまで彼女たちを追い詰めている。謝らせている。
わかってる。
尚があたしのために怒ってくれてるんだって。
すごく嬉しいけど…
「ひどいよ…尚。」
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