彼氏キケン地帯
「は…?」
尚が怪訝そうに眉を潜めると、泣きそうになりながら彼女はもう一度「酷いよ」と言った。
酷く切なそうな顔をしていた。
「なんでその子なの?」
尚にクッキーをあげた子だった。
もっと目つきや態度がキツかったのに、尚の前では普通の女の子だった。
ただ、尚のことが好きで、あたしのことが気に入らなかったんだなぁってわかった。
けど、連んで嫌がらせぢて…性格に問題があるとしか思えない。
「しかたないよ」なんてイイ子ぶりっこできるほど、あたしはできた人間じゃない。
「あたしの方が、ずっと前から好きだったのに。」
「だからムリって言ったじゃん。」
ずっと前から…?
「中学の時だって…っずっと尚だけが好きだったのにっ」
彼女の言葉に、ふたりは同じ中学だったとわかった。
そんな前から?
ずっと尚が好きで、振り向いてもらいたくて必死だったの?
「尚に釣り合うように、スカートだって短くしたし、髪だって染めたし…メイクだって…」
彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「毎年チョコだって作ったし、冬にはマフラーだって編んだよ?」
「…」
「必死で尚に釣り合う子になったのに、なんでよりによってその子なの?」
彼女の話を聞いていると、わからないけど心の奥に小さなわかだまりがあった。
「それに尚…中学の頃はっ」
「うっせえよ。言いたいことはそれだけ?」
「え…っ」
「てめえのことには興味ねぇよ。」
「ひっひど…っ」
「謝れよ。蜜希に謝れ。」
「っ…」
見てるのが辛かった。
彼女があまりに可哀想だった。
たしかにこの子がしたことは許せない。
好きになれないし、もちろん背中を押してあげるなんてことできない。
だけど、好きな人に彼女ができて、そして冷たくされたら悲しいよ…。
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