彼氏キケン地帯
頬を染めて、口元をきつく結ぶ尚の姿に、自然と笑みがこぼれる。


また新しい尚を見れたと思うと、それだけで嬉しくなる。


でも、まだわからないことだらけ。


好きだから知りたい。

尚のことを、わかっていたいし、わかってあげたい。



「お願い。少しずつでいいから、最初から話して?尚がその…途中から素を出さなくなった理由とかさ。」



なるべく尚が嫌な気持ちにならないように、鬱陶しいと思われないように言葉を選んで話した。


あたしの気持ちをわかってか、尚は少し戸惑いの色を見せたあと、小さく口を開き始めた。



「俺…俺んち、母親が俺の本当の父親とは違う男と再婚したんだ。」


「うん…」


初めて聞いた、尚んちの家庭の事情。


ぽつりぽつりと、一生懸命あたしにすべてを話そうとしてくれているその姿がなにより愛おしい。


「で、その再婚した奴が俺と今一緒に暮らしてる親父。
ソイツとは、今まであまり話さなかったし、よく思われていないってことはわかってた。
母親の方も、俺が邪魔だったみたいでさ。
だけど、あのオンナ。ある日突然、違う男と家出て行きやがったんだよ。」


「…ひどい。」



尚の話は、心を痛めるものばかりだった。

気がつけば、自分の眉間にシワが寄っていて、鼻の奥がやたらツンとしていた。


「その後、親父もオンナに走って、たまに家に帰ってくるかと思えば俺は邪魔者扱い。
そんなのが続いて、中学にあがったときには、悪い奴らとばっか一緒にいた。………いろんな女と寝た。」



最後の言葉は、想像するだけですごく嫌だし、正直ショックだった。


「…軽蔑したよな。」


でも、傷ついているのは尚だった。

黙ってしまったあたしに、そんな悲しい言葉を口にしたのだから。



「そんなことない!」



尚のそんな顔は見たくなくて、あわてて否定した。

それに、あたしの気持ちも尚にわかってもらいたかったから。


「あたし、ちゃんと覚悟してたから。たしかに、ショックだったけど…だけど、その過去も現在(いま)も含めて、それが尚だから。軽蔑したりなんてしない。だから、最後まで話してほしいよ。」
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