勝利の女神になりたいのッ!番外編
「紫衣、これはどういうことか自分でわかって言っているのだな。」
「はい。」
緊迫した雰囲気が襖越しにでも感じ取ることができた。
そして最も恐れていたこと、正澄様が紫衣を名前で呼んだのだ。
殿はお気づきになられたのだろうか。
紫衣という名前を聞き逃してくれてはいないだろうか...。
「お待ち下さい、兄上。」
正澄様を制止する殿の声。
殿は気付いてしまわれた。
彼女が紫衣だということに.....。
俺は役目を果たせなかった。
左近様と朱里になんと言おう。
でも、そんなことはもうどうでもいいのかもしれない。
身を隠して覗き見た殿のお顔はとても柔らかかったんだ。
正澄様のお部屋から紫衣を抱き上げて廊下を歩く殿。
まるで壊れ物でも扱うような丁寧なその扱い。
お幸せそうに見えた。
もしかしてこれは災い転じて福となすというやつではないのだろうか。
そうだろう?
そうだよな!
そうに違いない!!