勝利の女神になりたいのッ!番外編
儚くて今にも消えてしまいそうな、そんな印象の紫衣。
控えめなおとなしい女だと思った。
でもその印象とは反対に彼女の心は熱い。
大切な人の為に知らない世界に来ることを選んだ紫衣。
その話しを彼女の口から聞いたとき、俺は信じられないような話をなぜか信じることが出来た。
それは紫衣の行動と言葉のせいだけではない。
儚さの中に垣間見えるその熱情と信念に似た光を彼女から感じるんだ。
俺の時折感じる寂しさや不思議なくらいに突然心が熱を持つ何かと紫衣の持つ気持ちが重なるような気がしたんだ。
だから初めて逢ったような気がしない。
もしかしたらずっと前から知っているのかもしれないと錯覚させるものがある。
俺は生まれたときに産声を上げなかったという。
手を尽くしてくれた医師が分娩室の外で待つ俺の父に声を掛けた。
「残念ですが...お子さんは..」
父は医師の言葉を最後まで聞かずに涙を流したという。
死産。
医師の告げようとした言葉は分娩室の中のオギャーという産声にかき消された。
「信じられない。」
成長した俺に聞かせてくれた出生の話。
「お前は奇跡の中で生まれたんだ。」
今でも続く父の言葉。
父は俺のことを奇跡の子供と呼んだ。
それが嬉しくはなかった。
嬉しいどころか思春期の頃は煩わしくて仕方なかった。
奇跡の子供だから、取り戻した命を大切にしろ。
そんな言葉がイヤでたまらなかった。