勝利の女神になりたいのッ!番外編
「兄上、どこの馬の骨かわからぬ娘を側に仕えさせるのは如何な事かと思いますが。」
「なに、ゆきの下で働いておる娘だ素性はわからぬことはないだろう。」
俺の言葉に間髪いれずに答える兄上。
娘は青褪めた表情を更に強張らせた。
「あの!!
私、正澄様にはお仕え出来ません!!」
部屋に響いたのは娘の声だった。
やはり断ろうとしていたのだな。
でも余りの物言いに兄上の表情は歪んでいる。
どんな思いを抱えているのかは知れないがあの口の利き方はまずい。
そう思っていると娘は真っ直ぐに兄上を見てからまた話し出した。
「ゆきさんを悲しませたくありません。
ゆきさんにはとっても可愛がって頂いています。
そのゆきさんの旦那様に仕えるなんて出来ません。」
なんとも潔い言葉。
城主の兄である正澄にむかって正直な言葉を発する娘に好感を持てた。
見ると可愛らしい作りの顔に光るのは澄んだ瞳。
計算高いこの世の中でこんなに綺麗な瞳を見たことがない。
怒りを露わにする兄上。
穏やかな兄上でもこの娘の無礼を許せぬか...
それとも意のままにならぬ娘を歯がゆく感じられたのか...
ポロポロと零れ落ちる少女の涙に俺は胸の痛みを感じた。
守ってやりたいと思ったのだ。
「ゆきさんはとても素敵な女性です。
全身で正澄様を想っています。
そんなゆきさんが大好きなんです。
だからゆきさんが悲しむ姿を見たくないんです。」
泣きながらも一生懸命に自分の気持ちを伝えようとする娘。
それもゆきの気持ちを優先に考えている娘にやはり俺は心を打たれずにいれなかった。