龍と虎に愛されて。
『はい、分かりました』
いつもだったら素直にそう答えるけれど、今の状況でそんな優等生発言をしても何も変わらない。
担任の手には、ヅラと伊達メガネが握られている。
一部始終を見られていたに違いない。
「職員室まできなさい」
無言で頷くと、担任はじっとりと汗をかいて湿っている手で、俺の腕を引っ張った。
俺と担任が歩き出すと、野次馬達が一斉に道をあける。
好奇心丸出しの視線。
チッと舌打ちした時、そばにいた佐和と目が合った。
佐和は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「なんて顔してんだよ」
「……小林……あたし……」
「お前のせいじゃねぇし、安心しろよ」
「だけど……――!!」
これ以上は、何を言っても佐和に届かない。
そう感じて、俺は口を結んだ。
全ては、自分が決めたこと。
佐和が責任を感じることなんて、何もない。
俺はそのまま佐和の横を通り過ぎて、担任と共に職員室へ向かった。