折れない心
「ちょっ、ヤバイって!
 マジヤバイって!」



那抖が赤くなった顔を隠しながらあたしに言った。



「俺、イルカどころじゃ
 なくなったじゃねぇかよ」



「え?本気にした?わぁ、
 イルカ来たよ!カワイイ!」



イルカが出てきて歓声があがった。



「紗茅ぃー!
 からかいやがったな!」


あたしは那抖に羽交い締めにされた。



「ちょっと!苦しいって!
 ほら、イルカさん!
     イルカさんが!」



「だーめっ!
 許さねーかんなっ!」



そう言ったまま、那抖はあたしの肩を痛いぐらい抱いた。


「ちょっと、
 恥ずかしいってば!」


「え〜?
 おまえがいまさっき言った言葉
 よりいいと思うけどなぁ〜♪」

那抖が意地悪く言った。



「だって。ほら!」



あたしは那抖の斜め前の席を指差した。



斜め前に座った小さな男の子が、イルカショーよりあたし達のことをジィーッと見てた。



「ほら、いいだろー!」



那抖は、男の子に見せつけるように、あたしのほっぺに自分のほっぺをくっつけた。

「ばっか!!!!!!」



男の子はニコッと照れたように笑って、少し離れたお母さんの元に戻った。



「嘘なんかじゃないもーん」

「ん?」


イルカが水しぶきをあげてジャンプして、みんなの歓声で私の声はかき消された。
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