窓に影2
「言ったよな、俺は何一つ歩に劣っているつもりはないって」
昨日の言葉。
夜景とわた兄の唇の感覚が蘇って、わずかに体が熱くなる。
「兄弟ってさ、何かと比べられるだろ?」
「あたし、一人っ子だからわかんない」
そっか、と笑う。
何を話すつもりだろうか。
「例えば勉強、運動。歩も決して悪くはないけど、俺には敵わなかった」
わた兄とは学年が違うから、その辺はどれだけ差があるのか違いがわからない。
黙って続きを聞いてみる。
「そして、顔は見ての通り。更に、好きな女も俺に取られてるときた」
確かに顔はわた兄のほうがキレイだ。
歩は中学まで私のことが好きだったらしいし、同じ時期に私がわた兄を好きだったのにも気付いていたと思う。
「だからね、歩はずーっと俺にコンプレックスを抱きながら育ってきたわけよ」
口には出さないが、妙に納得。
高校に入学すると同時にわた兄が家からいなくなって、歩は地味男から好青年に変貌した。
その変化が、わた兄の話を裏付けている気さえする。