窓に影2
甘い声は小さくて、受話器からしか届かない。
「何言ってんのよ」
同じくらい小さな声で返した。
「一人で先走って、別れ切り出して、勝手なこと言ってるっつーことくらいわかってるよ」
だったらどうしてそんなこと言うの?
私は自分の行いを反省して、それならしょうがないって諦めて、どんなに辛くても自分一人で泣いて乗り越えてきた。
それを、今更……。
「他の男に手ぇ出されたのがショックで、本気で腹が立ったんだ。自分は勉強ばっかで恵里に何もできなかったくせに、裏切られたとか勝手に思ってさ」
話している歩の口元から、モワッと白い気体が広がった。
言葉と一緒に寒さも沁みる。
「それなのに、部屋に明かりがついてないだけでどこ行ったんだろうとか、誰といるんだろうとか思ったりして……。勉強どころじゃなくなるんだよ」