窓に影2
「恵里」
電話の受話口から甘い声が聞こえる。
「泣いてんの?」
「泣いてないよっ」
返した声は明らかに鼻声。
それが恥ずかしくて押し黙ると、歩がぽつりと呟いた。
「抱きしめたい。力いっぱい」
その言葉に涙はまた溢れてグスッと鼻をすすれば、歩が困ったようにため息をついたのがわかった。
抱きしめてよ。
今すぐに。
でも、悔しくて素直になれない。
「あたしのことより合格すること考えなさいよ」
「……やだね」
「バカじゃないの?」
悪態づくが声に張りが生まれない。
冷たい空気が流れるこの場所で、顔だけは火照っていた。
「なぁ、恵里」
「なによ」
「俺のこと、嫌い?」
どうしてそんな聞き方するの――?
そう聞かれると……
「大っ嫌い」
こう答えちゃうじゃない。