窓に影2

 そして、じゃあねと言いながらドアを閉めようとしたとき、

「恵里」

 箱を片腕に抱えたまま、もう一方の腕が私を包む。

 懐かしい歩の匂い、そして、箱の中身の匂い。

「一緒に食べようよ。昨年みたいに」

 低くて甘い声は私の四肢や五臓六腑、更には脳みそまでを刺激し、狂わせる。

 せっかく今まで「歩絶ち」していたのに。

 それが合格のための、願掛けのようなものだったから。

 私はわずかに残った理性の糸を手繰り寄せるように、頭を横に振った。

「俺のこと嫌いになったの?」

 そんなわけないじゃない。

 再び頭を横に振った。

 わかってるんだ。

 わかっててわざとこう言ってるんだ――。

「なら、いいじゃん」

 歩は私を腕に収めたまま、部屋の中へと移動する。

 必然的に私も部屋の中に入ることになる。

 私は逆らえないまま引きずり込まれ、ドアの閉まる音を後ろに聞いた。

 ああ、入っちゃった。

 ここまで来ちゃうと、もう――……。

 我慢できないかもしれない。

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