窓に影2

 歩は私をしっかり抱えたまま、箱をテーブルの上に置いた。

「そういや去年は5日早かったよな。今年は25日も早いみたいだけど」

 そう言って彼は、私の顔を両手で上に向けた。

 このときの顔は、自分でもわかるくらい真っ赤だったと思う。

「別に、ただの差し入れだし」

「恵里が作ったんだろ?」

「そう……だけど」

 歩は私をテーブルの前に座らせた。

 自分もその隣に腰を下ろし、箱を開ける。

「俺、合格が決まるまで恵里に手は出さないって約束する。だから、これは一緒に食べよう」

 箱の中身は、ガトーショコラだ。

 母ではなく、自分で作った。

 昨年のバレンタインデーぶりに。

 歩の笑う顔を見ると、首を縦に振らずにはいられなかった。

「恵里、マジでありがとう。俺すげー頑張れるよ」

 右頬に手が添えられ、顔が近づいてくる。

「うん、頑張ってね」

 合図を読み取り、目を閉じた。

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