窓に影2

「なんとなく」

 可愛くない答え。

 反抗心に小さな火がついた。

 こんな時くらい、もうちょっとロマンチックな言葉を期待したのに。

「あっそ」

 そう言って歩の肩から離れると、歩は自分の腕で私を引き戻してきた。

 さっきとは波打つ速さが違う。

 鼓動の音でせせらぎはほとんど聞こえなくなった。

「夕されば 蛍よりけに燃ゆれども 光見ねばや人のつれなき、ってね」

 歴史的な何かを感じる言葉が聞こえたが、私の頭じゃそれの意味するところはわからない。

「何よそれ。俳句?」

「バーカ。五七五七七は短歌だよ」

 そこでガクを見せ付けられても、私の反抗心の火力が増すだけ。

 素直になれない天邪鬼。

「そうだっけ?」

「古今集に入ってる一つ」

「……あっそ」

 その短歌とやらはどのような歌であるのか、聞く気にはなれなかった。


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