窓に影2

 以前、歩に言われた言葉が頭に浮かんだ。

“本当に嫌なら殴るなり蹴るなりして拒否しろよ。泣きながら止めてって言えよ”

 わた兄を殴るなんてできないよ。

 どうしよう。

 抱きしめられて、嫌じゃない。

 与えられる刺激に、指先まで痺れている。

 どうしよう、歩――……。

 頭の中がパニックになった頃、わた兄が首元でクスッと笑った。

 そして私は腕から開放された。

「あいつ、警戒心強いな」

「え?」

 左の首元にピトッと指が触れる。

「キスマーク。しかも、割と新しい」

 恥ずかしさに顔が赤くなった。

 慌てて手で隠す。

「いつも付けるの?」

 確かにいつも付けたがるが、こんなわかりやすいところに残されたのは初めてだった。

 黙秘すると彼はそれを肯定だと受け取ったらしい。

「ふーん。意外と独占欲強いんだ」

< 87 / 232 >

この作品をシェア

pagetop