窓に影2

 不適に笑うわた兄もカッコイイ。

 なんて思っている場合ではないのに。

 触れても手触りなんてないのに、私はわた兄が指し示した場所に何度も指を滑らせた。

 歩の感覚を取り戻そうとした。

 しかし、その隙をつかれて今度は正面から抱きしめられる。

 必然的に心拍数が上がった。

「ダメだよ、わた兄……」

「そんな断り方じゃ、男は離れないよ」

 再び頭をよぎる、歩の言葉。

 でもやっぱり彼を殴るなんてできない。

「恵里、卒業後の進路決まった?」

 何の脈絡もない話題に、頭の中が「?」で埋まる。

「決まってないけど」

「やりたいことはある?」

「MTビルでショップ店員やりたい」

 ふーん、と言いながら腕に力が篭っている。

「卒業したら、東京に来いよ」

「え? どうして……」

「こっちは最前線だよ。109だってある」

 確かにそれは魅力的だけど、頷けるわけがない。

< 88 / 232 >

この作品をシェア

pagetop