窓に影2
不適に笑うわた兄もカッコイイ。
なんて思っている場合ではないのに。
触れても手触りなんてないのに、私はわた兄が指し示した場所に何度も指を滑らせた。
歩の感覚を取り戻そうとした。
しかし、その隙をつかれて今度は正面から抱きしめられる。
必然的に心拍数が上がった。
「ダメだよ、わた兄……」
「そんな断り方じゃ、男は離れないよ」
再び頭をよぎる、歩の言葉。
でもやっぱり彼を殴るなんてできない。
「恵里、卒業後の進路決まった?」
何の脈絡もない話題に、頭の中が「?」で埋まる。
「決まってないけど」
「やりたいことはある?」
「MTビルでショップ店員やりたい」
ふーん、と言いながら腕に力が篭っている。
「卒業したら、東京に来いよ」
「え? どうして……」
「こっちは最前線だよ。109だってある」
確かにそれは魅力的だけど、頷けるわけがない。