窓に影2

「何言ってんの、東京になんか行ったら……」

「歩と離れるって?」

 わかってるなら、どうして?

 小さくなって戸惑っていると、わた兄はやっと私を手放した。

「やっぱね、浮気しようっての、ナシ」

 ああ、大人なりの冗談だったのか。

 なんて胸を撫で下ろしたのも束の間。

「歩をやめて、ちゃんと俺と付き合おうよ」

「ええっ? ちょっと待ってよ、彼女いるんでしょ?」

 そんな問いに、彼は少しも動揺しない。

 むしろ、それを逆手に取ってきた。

「彼女なんて今すぐにでも別れられる。それで断ってるつもり?」

「あたしにだって歩がいるんだから」

「だから、別れちゃえば?」

「やだ!」

 この時初めて、わた兄の笑顔が一瞬だけ崩れた。

 すぐに笑顔になったわた兄は笑いながら、

「あーあ。振られちゃった。初めてかも」

 と欄干に寄りかかる。

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