窓に影2
「まだ二時間も経ってないけど?」
ここからは歩の声は聞こえない。
「あーはいはい。わかりましたよー」
電話を切ったわた兄はひとつため息をこぼす。
「そんなに心配なら恵里を出さなきゃ良かったのに」
と呟き、帰る合図を送ってきた。
展望台の階段を下っていると、「あ」と言ってわた兄が立ち止まる。
「どうしたの? 落し物?」
3段ほど先に下って振り向くと、彼は私の肩を掴んで同じ段まで降りてきた。
「これは、宣戦布告」
そう言って、チュッと音を立てて、触れるだけのキスをしてきた。
らせん状の階段でやけに「チュッ」という音が響き、頭の中で反響を繰り返す。
突然の事態に私は何も言えず、その場に固まってしまった。
歩……。
あたし、わた兄とキスしちゃったよ。
放心状態のまま私は手を引かれ、車に乗せられて、歩の待つ西山家へと帰った。