ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
「そろそろ頃合いかしらね」

術を発動しつつ服をもう片方の手で触り、乾き具合を確かめながら呟いた。

この術は風をただ吹かすだけという、極めて単純な基本系の技である。精霊術というのは攻撃系や防御系だけでなく、わりと生活に密着した術も多い。

「でもやっぱりまだ少し、臭いは取れないみたい」

服に鼻を近づけると、私は眉根を寄せた。

まだドブ臭かった。これでも風呂場に備え付けてある石けんで力一杯擦りながら、洗ったはずなのだが。

私は術を止め、仕方なく服をそのまま着ることにした。これ以上洗っても完全には落ちないだろうと判断したのだ。

諦めて溜息を吐きながら着替えていると、外から賑やかな声が近付いてきて、脱衣所の扉が勢いよく開けられた。
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