ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
エドの指先からは、今までとは明らかに曲調の違う旋律が流れてきた。

ゆったりと、さざ波が揺れているかのように静かに奏でられるメロディ。

エドの唇からはその旋律と調和した綺麗な歌声とともに、言葉が紡がれていく。

「母なる大樹に抱かれし者よ。隣人に静寂をもたらされし者よ。眠りにつきしこの地を彷徨う、我らを守護する者たちよ。安らぎを与えし、我らを導く偉大なる御霊レイ。汝の名の下に我らの声に耳を傾けよ。さすれば光明開かれん……」

弾いている楽器に埋め込まれていた精霊石が、紋様を浮かび上がらせながら鈍く光っていた。

取り囲んでいた魔物たちが、流れてきた旋律の影響でバタバタと倒れていっている。

私にはエドの唄っている詞の内容が、全く理解できなかった。一見何かの術文のようにも聞こえるのだが、もしかしたらそれ自体に意味はないとも考えられる。

吟遊詩人の技で最も大切なのは、全体的な歌詞の内容ではないらしい。この術を発動するのに必要なものはその旋律と、詞に含まれている『キーワード』となる単語だと聞いたことがある。
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