ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
第3章 出立
精霊の加護
「ブタよね」
「ブタだな」
「ブタですぅ〜」
その容姿はヒト族でいうなれば、家畜豚に酷似していた。
「ハッ、まさかあれが……魔王!?」
「そんなわけないでしょ」
大袈裟なリアクションで驚いているアレックスに対して、私は冷静に即答する。
「エリスさん〜何故、そう断言できるのですか〜?」
「当たり前でしょ。だって魔王なんているわけないもの。
例え100歩譲って『いる』と仮定したとしても、魔王がブタの容姿であるはずがないわ。
何故なら数ある魔王伝説で、魔王自身がブタだったという話は、少なくとも今まで一切聞いたことがないもの」
「そういえば〜僕も魔王がブタだなんて〜聞いたことないですね〜。もし魔王がブタだとしたら〜僕の魔王に対してのイメージが崩れてしまい〜戦う前から確実に戦意喪失ですけど〜」
「確かに……仮に魔王がブタだというのであれば、俺たちの祖先はブタと死闘を繰り広げていた、ということになってしまう!」
「祖先が死闘していたかどうかは分からないけれど、私もブタとは戦いたくないわね」
「わたくしはこちらの管理を任されている、リチャードと申します」
ホールに良く響く声が、私たちの会話の中に割って入ってきた。ソレはシルクハットを脱ぐと、深々と丁寧にお辞儀をする。