ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
私は嫌な予感を覚え、即座に後ろを振り向いた。

倒したはずのリチャードが、案の定その場に立っていた。

「ようやく回復が完了致しました」

(! しまった)

やはり私の術力だけでは、中位クラスの魔物に致命傷を負わせるまでには至らなかったようだ。しかも敵を倒した後に必ずしなければならない、生死の有無の確認を怠っていた。今更ながら自分の詰めの甘さが悔やまれる。

「やれやれ、戦(いくさ)慣れしていない身体というものは、思うようには動かないものですな。軽い肩慣らし程度のつもりでしたが、わたくしとしたことが油断しておりましたぞ」

リチャードは誰に言うでもなく笑みを浮かべながら肩を竦めてみせたが、その態度からはあまり残念そうには見えなかった。彼にとって私たちとの戦いなど、朝飯前のお茶漬けにさえならないのかもしれない。

今は非常にまずい状況だった。

アレックスがこんな状態である。戦えるのは私とエドだけ。

この二人でリチャードを相手にするのは、正直無理だ。

「さて」

リチャードは足元に落ちていたシルクハットを拾い上げると、手で軽く叩いて埃を落とした。

「歓迎会の続きを始めましょうか」
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