ゼロクエスト ~第1部 旅立ち
私たちは洞窟から6日前に戻ってきていたが、この町には未だに滞在している。

その間何をしていたかといえば、毎日図書館へ通い、あの魔物に付けられた紋様のことを調べているのだ。

しかしどの書物を開いても、紋様やあの魔物に関しての記述が一向に見つからないのである。

「術医さんも〜言っていたじゃないですか〜。書きかけの〜マーキングかもしれないって〜」

当然、町の術医には見せた。だが術医にも、これが何の術なのかまでは分からないようだった。

術医の話では、中位クラスの魔物には時として、マーキング(印)を利用した術を使用してくる者がいるらしい。

紋章のような印を人間に付け、それを介して生体エネルギー――即ち、術発動時に精霊力とともに使用する精神エネルギーを抜き取るというのだ。

抜き取られた人間は弱って死亡するのだが、死体にはその時の刻印だけが残されたままだという。

だが私たちはマーキングをされたにもかかわらず、生きていた。

それについての術医の見解では「施されたのは不完全なものかもしれない」とのことだった。

「書きかけ」にしか見えないほど単純な紋様だというのだ。このような紋様は術医自身も嘗て見たことがないらしい。

言われてみれば痛みは、目が覚めた時の1回だけである。

その後も精霊術は普通に使えるし、身体にも全く変調は見られなかった。術が発動した様子もない。

しかし私は勿論、この話には納得していなかった。

何故ならあのサラという名の魔物。あの魔物がわざわざ、書きかけのマーキングだけを残していくとは思えなかったからだ。
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