アパートの二階の窓からは、
掘割になっている線路の
向こう岸に沿って続く
桜並木道がよく見えた。
新宿に向かう線路の上を、
いつもオレンジや黄色の電車が
せわしなく掛けていった。
しかし向こうの桜たちは、
いつもゆっくりと
その体を風に任せて
揺らめかせるのだ。

桜たちはまるで、
艶めかしさに満ちた
女の如く僕には感じられた。
そしてその姿は、
遠く離れた故郷にいる、
狡猾で、時に優しく、
厳しく、そして脆い
彼女たちの姿を
僕の記憶から呼び起こした。
< 3 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop