彼は教育実習生


先生との最後の雑用も、いつも通りたわいもないお喋りをしながら進んでいった。

あと数枚のプリントをホチキスで留めれば終わってしまう。私は急に悲しくなってしまい…、

「センセイ…」
消え入りそうな声しか出せなかったけど、先生に呼びかけた。

私を見た先生は驚いているのが分かる。

そう私は泣いていたんだ。自然と頬に涙がつたる。"先生を困らせちゃう"分かっているけど止められなかった。

「先生あの…、わたし…、あのね…、先生のこ…と……」

先生の人差し指が私の口を止めた。

「その先は言ってはいけないよ。私は仮にでも君の先生だ。気持ちに答えてあげられないんだ」
先生の声も少し震えているようだった。

でも私は自分の事で頭がいっぱいで気づかなかった。先生も悲しそうな顔をしている事を。

私は先生に「帰ります」と挨拶をして教室を飛び出した。後ろで先生が呼んでいたけど、振り向けなかった。







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