好きだと言って。







「…覚えてんなら話しは早い。」


どんな顔をしているかはわからない。


だけど、きっとコイツはあの日みたいに口の端を軽く上げて、妖しく笑ってるんだ。


嫌な奴。


「…口止め料払ってなかったな。」


そう言って、四つん這いになってあたしに近寄ってくる。


あの日のように、あたしは逃げ場のないサンドイッチ状態。


……ガタンッ


エレベーターの扉の部分に背中が当たった。



逃げ場はない。


とっさに頭を過ぎった。


ここは、あの日と違う。


エレベーターの中、助けは来ないしコイツと二人きり。

何かあっても誰も来てくれない。



「…まだ、あのこと誰にも言ってないんだ?」


近くだからわかる。

あたしの反応を見て愉しむような、意地悪な妖しい笑み。


そして奴は、さらにあたしの顔に近づく。しゃべると吐息がかかるくらいに。



「…言って、ない。」


下を向き、なるべく彼を見ないようにする。



けれど、そんな些細な抵抗も奴の手によって呆気なく終わる。


あたしの顎に手をかけて、無理矢理顔を上げさせられる。


強制的に向き合わなければならない。


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