好きだと言って。


思い出したくないのに、手放せない思い出。


苦しくて、みているだけで辛いのに、どうしても外せないんだ。


これは、あたしにとってはいつになっても大切なものだから。


忘れたくないから。



あれは、一時的なものだったけど、あの時間が夢じゃないんだって思いたいから。



初めてもらったプレゼントだったから…。




「アズサ。」


「はっ?!」


「間宮梓。お前の本名だろ?」


「え…うん。」



唐突に名前を呼ばれてびっくりした。


こいつ、あたしの名前知ってたんだ…。



「梓…ね。」



もう一度そう呟くと、「へぇ…」と嫌な笑みを浮かべてキーホルダーをのぞく。



「だから返し…っ!」


「“S”は?」


「は…?!」



あたしの手からまた財布を遠ざけ、余裕の笑みを浮かべる。


そんな質問にたじろぐあたしを見ると、冷笑を浮かべ意地の悪い口調になった。



「元カレの名前は?」


「な…!だっだから!いちいち検索しないでって言ってんでしょ?!」


「ね、名前は?」



しつこく聞いてくる。

あたしがいくら口を閉ざしてもしつこく。



なんでこんなことをいちいち細かく聞いてくるわけ?


こんな話なんかしたら、今度は弱みを握られてしまうじゃないか。


そうだ。


この男、あたしが自分の言うとおりにしないから気に入らないんだった。

だから、無理やり弱みを掴んで従わせるつもりなんだ。


こいつ…やっぱり最低だ…!




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