好きだと言って。
「あ…」
胸ぐらを掴んでいた力が抜ける。
一気に熱が冷めたように白けた気持ちになった。
ミスった…。
今まであたしが学んできた日本語ってなんだったんだろう。
あたし、日本人歴16年。もう少しで17年になろうとしているのに。
「…ハズい。」
「完全に滑ったね。さっきの威勢の良さはどこ行ったの?」
「うるっさい!いいから、早くとってきてよ!バカ!…あっ?!」
パッと胸ぐらを掴んでいた手を放したはずなのに、今度は逆にギュッと手首を掴まれた。
「ちょ…ちょ、ちょ、ちょッ」
「…いいじゃん。」
「は…はい?」
もう一度ギュッと握りかえされた。
今度は優しくて、少しびっくりして顔をあげた。
「う…わ…」
な、なんだこの男。
なんでこんな顔してんの?
「…っ!見んな。」
まだ夕日も出ていないのに、この男の頬は真っ赤に染まっていた。
自覚しているのか、あたしの視線に気がつくと、口元を手の甲で隠し、視線をそらした。
そんな王子を見て驚いた。
今まで見た顔は、胡散臭い作られた笑顔。
あたしにだけ見せる冷たい瞳。あざ笑うかのような冷笑。
一度だけ…自然に思えた笑顔。
なのに、今目の前にいる王子は、きっと誰も見たことのない姿。
な…に…?
その態度。そのしぐさ。その頬の紅さ。
これも計算なの?
すべて仕組んでいることなの?
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