好きだと言って。


眉を小さく歪めて、あたしをにらんでる。


なんで睨まれてんだ?



そう思ったけれど、口には出せなかった。


精神的に疲れているからだろうか。



「…手、こんなにしてまで……探してたのか?」


あまりに切なそうに、その綺麗な顔を歪めるから、なんだかあたしまでまた泣きそうになった。



王子こそ、前髪が少し濡れてた。

汗…かいてる。


そんな息が切れるまで、あたしを追ってきたの?


ううん。

王子は運動できるから、ちょっと走っただけでこんなにはならないはず。


そんなに、時間経ってたっけ?



中庭にある時計を見ると、もう六時近くになっていた。




それでも、あたしはまだ探せると思った。


こんな王子を見ても、やっぱりあたしの頭の中は晴くんだけで。




「…放してよっ」


「探しても…どこにもねぇよ?」



焦るあたしに、静かにそう言った王子に腹が立った。



「なんで、そう言うこというの?!あたしに、そんな意地悪して楽しいわけ?!」



窓からキーホルダーを投げ捨てられたときのことを思い出し、鼻の奥がツンとした。


こんな奴の前で泣いてたまるか。



「あたしが嫌いなら、構わなきゃいいじゃん。からかって、あたしが焦るのが楽しいの?あたしが困ることするのが楽しいわけ?」




王子に惹かれた理由。

本当は、綺麗な顔してるからとか、優しいから、頭がいいからとかじゃなくて、なんとなく似てたんだ。



晴くんに、どことなく。

横顔とか、なんとなく晴くんに似てたから。


だから、惹かれたのかもしれない。



だけど、この人は晴くんじゃない。



「王子なんて、だいっきらい!」




放課後の中庭。


夕方のオレンジ色の空の中。


冷たくあたしの言葉が響いた。


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